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「だからお願い。今日と明日は一緒にいて。」
私たちは近くのパチンコ屋の前で雨宿りをしていた。
「でも明日は朝から大事な仕事が。」
「でも一緒にいたいの。」
今の私は相当我が侭で面倒臭い女だと思う。嫌われてもしょうがない。それでも私は一緒にいたかった。
「私と仕事どっちが大事なのよ。」
好樹の顔色が変わった。それもそうだと思う。私は決して言っては行けない一文を言ってしまったのだから。
「それは比べるものじゃないだろ。どうすればいいんだよ。」
好樹は声をあらげた。普段私の我が侭を全て聞き入れてくれていた彼が、初めて怒った。
「ごめんなさい。」
私はその勢いに出す言葉がなくなった。
どうしようもなくなった私は気が付くと走り出していた。雨の中、どこへいくとも知れず、ただひたすら雨の中を走った。
後ろでは好樹が私の名前を呼びながら追いかけている。
すぐに止まればよかったのに私は走り続けた。勿論、私は走るのが遅い。やがて好樹が私を捕まえてくれると思っていた。しかし、その期待は無情にも崩れさった。
急ブレーキの音と共に好樹の声が消えた。そして、何かが擦れる激しい音。
私は何が起きたか分からなかったが反射的に振り返った。
そこには横転したトラックが道路を塞いでいる。そして周りにいる人がざわざわと騒いでいた。
「好樹……。好樹っ。」
好樹は道路の真ん中に倒れていた。
全く動かない好樹は無機質な銅像のように雨にうたれていた。
私は好樹のもとに向かった。さっきまで私を追いかけて来てくれていたのに。
「好樹っ。起きてっ、好樹っ。」
大きな体を抱き上げた。全く力の入っていない体はとても重く感じた。
「誰か。早く。早く。呼んでよ。」
私は意識が錯乱していた。呼吸を整える事さえできない。
やがて聞こえてきたサイレンの音に私の心臓の鼓動は一層速さをましていた。
抱き寄せる好樹からは今までの温もりが消えていた。
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