第三章

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好樹はあれから意識は戻っていない。いわゆる脳死状態だった。 私は毎日好樹のもとへ通った。これくらいしか好樹に対してできることはなかった。 「好樹。もうすぐ桜が咲く季節だよ。」 そう、もうすぐ私たちが知り合ってから一年がたとうとしていた。 「覚えてるかな。丁度この季節に知り合ったんだよね。」 いつものように全く反応はなかった。しかし私は話しかけ続けた。 「私…また好樹に会えたら何もいらないよ。我が侭もいわない。……会いたいよ。」 私はここへくるたびに泣いている。枯れることのない涙は私の心を傷付けた。 「また、来るね。」 私はそういって好樹の手に口づけをした。 外に出ると大きな桜の木が目を惹いた。 既に桜の花がついており、風に吹かれて数枚ぱらぱらと空気中を舞っていた。 私は好樹と出会った頃を思い出してた。 ―この桜並木綺麗だな また来年もこような― 「あの桜並木……。」 私はその場所へ向かった。気休めではないが、彼処に行けば気持ちが少しでも癒えると思ったから。
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