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好樹は呆然とその場に立ち尽くしていた。
そして、私に気が付くと目を細くして首をかしげた。
「結……?」
「好樹……会いたかった。」
今の状況は把握出来ないが、再び会えた喜びで私は好樹に飛び付いた。
「結……。ごめん……。」
好樹は私の体を離すと一言呟いた。
「どうしたの?」
「これから一緒に居られそうもないみたいだ。」
「どうしたの?意識が戻ってここにいるんじゃないの?もうずっと一緒だよ。」
「いや。僕はまだベッドで寝てるんだ。」
好樹の言っていることが理解できなかった。現実では有り得ない事が今目の前で起きていた。
「どういうことなの?」
「もう、意識は戻らない。僕はあそこにはいないんだ。」
「でも、好樹はここに…。」
「僕もわからないんだけど、気付いたらこの場所にいたんだ。今までは……。」
好樹は言葉をつまらせうつ向いた。
「真っ白な空間に浮いているような変な感覚。体は見えないんだ。手も足もお腹も全部。ただ真っ白な空間。それで、映画のワンシーンのようにコマ送りで結が見えた。」
話す好樹の唇は微かに震えていた。時折、鼻をすすっている。
「未来の結が見えてたんだ。来年か再来年か……この場所を結が知らない男と歩いてた。顔はぼやけてよく見えないんだ。黒ぶちのメガネをかけていて、黒のジャケットを着ていた。」
好樹は話ながら泣いていた。涙で濡れた顔は初めてだった。
「きっと、その時にはもう僕はいないんだ。きっとじゃない、絶対に……。」
大きく息を吸うとせき払いをした。
「必ず幸せになれよ。もう別れは始まってる。そして、この桜が散ったら出会いが始まる。」
好樹は私を強く抱き締め、耳もとで囁いた。
「好樹と別れなんかしない……。好樹とまた出会うんだから。」
私も好樹を強く抱いた。その体には確かな温もりがあった。
すると強く抱いていた腕が不意に軽くなった。桜の花びらが何枚も待っていた。
「好樹……?。待って……待ってよ。」
そこに好樹の姿はなかった。
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