第三章

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好樹は呆然とその場に立ち尽くしていた。 そして、私に気が付くと目を細くして首をかしげた。 「結……?」 「好樹……会いたかった。」 今の状況は把握出来ないが、再び会えた喜びで私は好樹に飛び付いた。 「結……。ごめん……。」 好樹は私の体を離すと一言呟いた。 「どうしたの?」 「これから一緒に居られそうもないみたいだ。」 「どうしたの?意識が戻ってここにいるんじゃないの?もうずっと一緒だよ。」 「いや。僕はまだベッドで寝てるんだ。」 好樹の言っていることが理解できなかった。現実では有り得ない事が今目の前で起きていた。 「どういうことなの?」 「もう、意識は戻らない。僕はあそこにはいないんだ。」 「でも、好樹はここに…。」 「僕もわからないんだけど、気付いたらこの場所にいたんだ。今までは……。」 好樹は言葉をつまらせうつ向いた。 「真っ白な空間に浮いているような変な感覚。体は見えないんだ。手も足もお腹も全部。ただ真っ白な空間。それで、映画のワンシーンのようにコマ送りで結が見えた。」 話す好樹の唇は微かに震えていた。時折、鼻をすすっている。 「未来の結が見えてたんだ。来年か再来年か……この場所を結が知らない男と歩いてた。顔はぼやけてよく見えないんだ。黒ぶちのメガネをかけていて、黒のジャケットを着ていた。」 好樹は話ながら泣いていた。涙で濡れた顔は初めてだった。 「きっと、その時にはもう僕はいないんだ。きっとじゃない、絶対に……。」 大きく息を吸うとせき払いをした。 「必ず幸せになれよ。もう別れは始まってる。そして、この桜が散ったら出会いが始まる。」 好樹は私を強く抱き締め、耳もとで囁いた。 「好樹と別れなんかしない……。好樹とまた出会うんだから。」 私も好樹を強く抱いた。その体には確かな温もりがあった。 すると強く抱いていた腕が不意に軽くなった。桜の花びらが何枚も待っていた。 「好樹……?。待って……待ってよ。」 そこに好樹の姿はなかった。
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