第三章

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その晩に私は夢をみた。 ――…‥ 静かな畔に私と好樹は座っていた。昼だというのに辺りは薄暗くなっていた。恐らく周りを木が囲んでいるせいだろう。 「ねぇ、結。人を好きになるって辛い事だね。」 「どうして?」 「だって、僕が死んでしまったら結を【愛してるって気持ち】はなくなってしまうでしょ。僕がいつか【結を愛せなくなる】って考えるとすごくつらいんだ。」 「大丈夫よ。私たちはずっと一緒。死ぬなんて考えたら駄目。」 私たちは湖の畔を見ながら話し合った。強く手を握り終始離すことはなかった。 湖には私たち二人と木の隙間から覗く青空がうつっていた。 ――…‥ そこで私は携帯電話のバイブの音で目が覚めた。 「何だ、夢か。そうだよね。好樹は…。」 ふと携帯をみると好樹の母からの着信が残っていた。 私の頭の中を嫌な予感がよぎる。急に心臓の鼓動が早くなった。 いっそ携帯を壊して死んでしまいたい気分だ。 しかし好樹に何かあったのかもしれない。 私は好樹の母に電話をした。 するとワンコールで呼び出し音が切れ、何やら受話器の奥でごそごそとやっている。 「もしもし、結です。」 「あっ、結ちゃんっ。よっ好樹が大変なのよっ。今からこれるかしらっ?」 かなり好樹の母は取り乱していた。きっと何か重大な事がおきたのだろう。 その後私は病院へむかった。しかしどうやって病院へ行ったのか覚えていない。 無我夢中とはまさしくこの事だろう。
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