第三章

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病院に着くと私は真っ直ぐ病室へと向かった。 病室の前には看護婦が数名おり病室の中を除いている。 「あの、私…」 私が喋ろうとすると、その数名の看護婦は軽く会釈をし私を中へと促した。 中では担当医と好樹の両親が立って見ている。好樹の父親にだかれて母は泣いていた。 「あっ結ちゃん。」 父親が私に言った。 「好樹に何か話してあげてくれないか。」 「どっどうされたんですか?」 父親は私の問いには答えず、優しく微笑み好樹をみた。 「わかりました。」 私は好樹の横に座り手を握った。 すると僅かではあるが人指し指が動いた。 「好樹。私だよ。結だよ。」 私は好樹の名前を呼んだ。 それに答えるかのように唇が微かに動く。 この光景を見ていた父親も涙を流していた。 「驚きました。私も長いことやっていますが初めてです。奇跡としかいいようがありません。」 担当医が説明をした。 「この後好樹は喋れるようになるんですかっ?歩けるようになるんですかっ?」 私は興奮していた。 「まだはっきりとは言えませんが、恐らく会話が出来るくらいにはなるでしょう。後は彼の頑張り次第です。」 その後も私は好樹に話しかけ続けた。その度に好樹は唇を動かした。 「大丈夫。ずっと私がついてるよ。」 好樹の目からは涙が一滴こめかみへと滑り落ちた。 それは好樹がはじめて流した涙。
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