でぃふぇくと。

†２†

そもそも手加減というものは、かなり腕のある者が、そこそこ経験のある者に対してすることであって、素人……ましてや防具も着けたことの無いド素人に対してするような事ではない。

下手な手加減は相手に怪我をさせる事もあるらしい。

……ここは本気で、さっさと終わらせるのが一番だろう。

「いくぞ……転入生……!」

俺は竹刀の先を岩波成に向け、じりじりと間合いを詰めた。

「うぅ……動きづらい」

岩波成はまだ慣れない防具に四苦八苦しているようだ。

そりゃそうだ、初めて防具つけて、いきなり実戦なんて無謀すぎる。

だが安心しろ……すぐに終わる。

「っと……拙者もいくぞ、殺那殿」

岩波成がそう言った次の瞬間、辺りの観戦者達からざわめきがあがった。

「それは……いったい何のつもりだ……？」

目の前の状況の意味が分からず、試合中にも関わらず尋ねてしまった。

「ん？これか？　これは居合いというもので、間合いに入った敵を真っ二つに斬り裂く剣法の型の一つだ」

いや、それは見れば分かる……俺だって漫画で読んだ事くらいあるさ。

だがそれを実際に目の前でやられるなんて……つか、剣道で居合いなんてありなのか!？

岩波成は低く腰を落とし、まるで鞘があるかのように腰にぴったりと竹刀を押し付けて動かなくなった。

ちょっとまて……これ、隙だらけじゃないか？

剣道は、面･胴･小手･喉元のいずれかの部位に竹刀を打たれたら終わりだ。

居合いの構えをとっている今の岩波成は……面ががら空きなのだ。

別に……打ってもいいんだよな……？

居合いなどといった技を剣道の試合で使った奴を見るのが初めてだった俺は、少し戸惑いながらも、面を打てる距離まで詰め、大きく竹刀を振りかぶった。

「面ッ!!　……って、あれ？　ぇあぁ？」

竹刀が……手中に無い。

振り下ろした俺の手には、竹刀が握られていなかった。

その直後、俺の背後で物音がし、振り返るとそこに竹刀が落ちていたのだ。

「拙者の間合いに入るとは、迂濶だな殺那殿」

「なっ!？」

明るい調子でそんな声が聞こえたかと思えば、今までの動きが嘘のように素早く、岩波成は俺を蹴り倒し、上に乗り掛かってきた。

蹴り倒し……？

「お前!　明らかに反則だろ!？」

「何を言うか、剣法とは生きるか死ぬかの真剣勝負……だが安心してくれ、殺しはせん」