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何か欠けてんだよなー。
俺の生活には。
別に不満なわけじゃない、むしろ満足してるくらいだ。
友達関係、学力、運動能力、どれも飛び抜けて良いわけではないが、不満するほど欠けてはいない。
だが、何だろう……何かが足りない──欠落している。
俺はこの安定した生活に、何を求めているのだろう。
いや……本当に求めているのか……?
「ん? これ欲しいのか?」
「え……?」
ふと我に返ると、目の前にチョコレートを差し出されていた。
……何? この状況。
「いや、俺がチョコレート食べてるのをさ、何か物欲しそーな顔で見てたから」
そう言いながら、俺に差し出していたチョコレートを引っ込め、自らそれにかじりついているのは、隣の席の駿也だ。
「……あ、すまん。ただボーッとしてただけなんだ」
「あぁそうかい、いつもの妄想癖ね」
「妄想癖って言うなー!! 妄想じゃなくて考え事だ!」
「一緒じゃん」
……もういい。
言い合いに疲れて、一つため息をこぼした。
月曜日──二連休からあけた初日であり、誰しもが憂鬱な気分で登校する。
俺もその一人であり、気分とは裏腹に快晴の冬の空を見上げながら、この教室へとやってきたのだ。
「それより……」
「それより?」
話を切り出した俺を見て、チョコレートをかじりながら駿也が聞き返す。
「何だその鞄は!!」
「え、ただの鞄だけど……何? 材質とか聞いてるの?」
「違う! 中身だ中身!!」
俺は半開きになっている駿也の鞄の中を指さした。
「中身って……チョコレートだけど」
「チョコレートだけど……じゃねー!! お前はどんだけ甘党なんだよ! そして学校に何しに来てんだよー!!」
「安心しろ、教科書類は置き勉してるから」
「それのどこに安心できる要素があるんだ!?」
駿也はクラスでも有名な甘党。
授業中以外は常にチョコレートを食べている程異常な甘党だ。
弁当?──想像に任せる。
「まぁいいじゃん、堅いことはさー」
「堅いこと!? これが堅いことと言うなら他にも……」
──ドォーン。
何とも間抜けな擬音が教室を包んだ。
駿也に文句を言っていた俺も、思わず停止する。
「何……どういうこと……?」
教室のあちこちからざわめきが起こる。
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