【第一部】第一章†1†

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何か欠けてんだよなー。 俺の生活には。 別に不満なわけじゃない、むしろ満足してるくらいだ。 友達関係、学力、運動能力、どれも飛び抜けて良いわけではないが、不満するほど欠けてはいない。 だが、何だろう……何かが足りない──欠落している。 俺はこの安定した生活に、何を求めているのだろう。 いや……本当に求めているのか……? 「ん? これ欲しいのか?」 「え……?」 ふと我に返ると、目の前にチョコレートを差し出されていた。 ……何? この状況。 「いや、俺がチョコレート食べてるのをさ、何か物欲しそーな顔で見てたから」 そう言いながら、俺に差し出していたチョコレートを引っ込め、自らそれにかじりついているのは、隣の席の駿也だ。 「……あ、すまん。ただボーッとしてただけなんだ」 「あぁそうかい、いつもの妄想癖ね」 「妄想癖って言うなー!! 妄想じゃなくて考え事だ!」 「一緒じゃん」 ……もういい。 言い合いに疲れて、一つため息をこぼした。 月曜日──二連休からあけた初日であり、誰しもが憂鬱な気分で登校する。 俺もその一人であり、気分とは裏腹に快晴の冬の空を見上げながら、この教室へとやってきたのだ。 「それより……」 「それより?」 話を切り出した俺を見て、チョコレートをかじりながら駿也が聞き返す。 「何だその鞄は!!」 「え、ただの鞄だけど……何? 材質とか聞いてるの?」 「違う! 中身だ中身!!」 俺は半開きになっている駿也の鞄の中を指さした。 「中身って……チョコレートだけど」 「チョコレートだけど……じゃねー!! お前はどんだけ甘党なんだよ! そして学校に何しに来てんだよー!!」 「安心しろ、教科書類は置き勉してるから」 「それのどこに安心できる要素があるんだ!?」 駿也はクラスでも有名な甘党。 授業中以外は常にチョコレートを食べている程異常な甘党だ。 弁当?──想像に任せる。 「まぁいいじゃん、堅いことはさー」 「堅いこと!? これが堅いことと言うなら他にも……」 ──ドォーン。 何とも間抜けな擬音が教室を包んだ。 駿也に文句を言っていた俺も、思わず停止する。 「何……どういうこと……?」 教室のあちこちからざわめきが起こる。
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