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始めの頃は、“迎えに来た"の意味を成から聞き出そうと努力した。
が。
「迎えに来たってどういう意味だったんだ?」
「だから、拙者は殺那殿を迎えに来たのだ」
「答えになってないだろ!! どこから迎えに来たんだよ……」
「それは言えぬ」
これの繰り返し。
成が変わり者だってことは、この1ヶ月間さんざん付きまとわれて嫌というほど分かった。
だから“迎えに来た"の真意を、俺はそれほど気にしない事にしたのだ。
成の事だ……どうせ深い意味も無く、それこそアニメか何かの影響でも受けて、あんなことを言ったのだ、と。
……それにしても成のやつ……何で転入初日から俺に付きまとい始めたんだ?
しかもこいつ、俺の名前、最初から知ってたような……。
「どうされたのだ殺那殿?」
「あ、いやっ、何でもない!」
突然声を掛けられて、慌てて誤魔化す。
成は、そんな俺を少し不思議そうな顔で見つめた後、早く行こうと俺に促した。
俺の家から学校までは徒歩十五分程かかる。
成の家が何処にあるかは知らないが、徒歩で通っているところを見ると、家からそう離れてはいないのだろう。
「拙者は部活が楽しくて仕方がないのでござる!」
成が唐突に言った。
「いくら楽しいからって……家から道着で来るのはどうかと思うぞ」
成の今の服装はといえば──上から下まで剣道に使う道着を着込み、後は防具をつければ準備万端といった状態だ。
……雰囲気作りの為か、わら草履まではいている。
「どうだ? 殺那殿も今度から、自宅から道着で来ればうわぁっ!!」
成が短い悲鳴と共に俺の視界から消えた。
……転んだだけなのだが。
「ほらみろ、慣れない草履なんか履いてるからこけるんだ……それにしてもお前よく転ぶよな」
転んだままの成に手を貸してやりながら言う。
「すまない殺那殿、拙者としたことが……ドジッ子も甚だしい。 切腹してわびる!!」
「切腹すんなっ!! つかお前、竹刀でどうやって切腹すんだよ!? ……ちなみに言うと、男のドジッ子は流行らん」
日に日にツッコミが上達していくのは、素直に喜んでいい事なのだろうか……。
こいつがやけに剣道を気に入り出したのは、転入初日の放課後の事だった──。
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