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「殺那殿……この防具とやらは、絶対つけねばならぬのか?」 「ん?……あ、あぁ……」 ったく、何で俺が……。 放課後──俺は何故か先生から頼まれ、転入生である岩波成の部活見学に付き合わされている。 先生いわく、 「一番仲良くしてるじゃない」 だそうだ。 違う……誤解だ。 俺は仲良くしてるんじゃない、付きまとわれているんだ。 事の張本人、岩波成はというと……剣道に使う防具と悪戦苦闘しながら、もぞもぞと動いている。 そもそもなんで剣道部なんだよ。 もし、もし万が一だ! こいつが入部なんかしたら……俺は部活中までこいつに付きまとわれるってことだろ!? もしそうなった時の事を想像して、少し悪寒がした。 「おい、何してる殺那! 入部試験始めるぞ、早く位置につけ」 「あっ、はい! すみません」 先輩から呼ばれ、慌てて位置につく。 真正面には、岩波成がグラグラと危なっかしく揺れながら、俺と対峙していた。 入部試験──俺の所属している剣道部は全国大会にも度々出場するほどの名門だ。 入部を希望する者は、部員の誰かと試合をし、勝つまではいかなくとも、顧問が認める程の試合が出来なくてはならないのだ。 ここにいる部員達は皆、俺を含め、その入部試験をクリアした者達ばかりだ。 で、今回岩波成の相手をするのが……俺、というわけだ。 「それでは只今より入部試験を始める。お互い向かい合って……始め!」 審判である先輩の合図の後、俺は一礼をし、岩波成も俺にならって一礼をする。 剣道というものは、色々と決まりがある。 それは試合中だけでなく、前後の礼儀作法まできっちりと決まっているのだ。 俺は決まりに従って、右足から前に五歩進んだ。 当然、岩波成も真似するように俺に近付く。 丁度中央に対峙すると、今度は蹲踞(そんきょ)と呼ばれる中腰の構えをとり、対戦相手と竹刀を交えるのだ。 「殺那殿……拙者、防具とよばれる物をつけるのが初めてなのだ。本当に必要なものなのか?」 「喋るな……つかお前、剣道やったこと無いのか……!?」 小声で話しかけてきた岩波成を一言注意し、また決まりに従い俺は三歩下がる。 これで後は試合を行うだけ、だが。 なんだよこいつ……剣道素人か……!? だったら何で剣道部なんかに……。 「手加減なんか出来ねぇぞ……」 俺は、そう小声で呟いた。
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