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カツカツと足音をたてながら、千鶴とリーゼレッタは病院の廊下を歩いていた。
千鶴はすでに白衣を脱ぎ、リーゼレッタもナース服ではなくいつも通りのメイドルックに戻っていた。
「御主人様」
千鶴の半歩後ろを行くリーゼレッタに呼び掛けられ、千鶴はそれに生返事をする。
「何故嘘をお吐きに?」
「さて、なんのことやら」
へらへら笑いながら返す千鶴に、さしものリーゼレッタも苦い顔をする。
「敏次様の死刑に反対したのは三人。今回の事件の被害者である桃香様、確保にあたられて直接戦闘を行った昌浩様。そして、御主人様」
言ってチラリと千鶴の方へ目線をやるが、千鶴に動揺した様子はなく、変わらず人を小馬鹿にしたような顔で歩いている。
仕方なくリーゼレッタは続ける。
「前者である桃香様がいくら最たる関係者であっても、教員を含めた本部会の意向を覆すことは出来ません。昌浩様も校長のお孫様とはいえ、ここではなんの役にもたちませんし。それが傾いたのは御主人様の、いえ、生徒会本部の決定です」
武魅以下四柱全員の記名のある嘆願書と、三年の主席から三席による時に理不尽さえも論理に組み込んだ演説に、本部会の面々はあれよあれよと言う間にそれを認めさせられたのである。
中にはその理論のわずかな穴に気付いた教員もいたが、それをわざわざ突っ込むような性格でもなかった。
「でもそれは生徒会本部の意向であり、俺のじゃないよな?それだと反対したのは六人になるぞ?」
「ありえません」
きっぱりと言い切るリーゼレッタ。
「今回は敏次様にも多大な罪があるため、重悟様や武魅様、風華様は中立の立場にありました。そして御主人様は重悟様と武魅様にこう言ったのです。『敏次を生かしておけば、またあいつらに会える』と」
ヒュー、と口笛を鳴らした千鶴は両手を上げて降参のポーズを示した。
「まぁ瞬間移動なんて希少価値がある能力に加えて多重能力(デュアルスキル)なんてもんを学園側が見逃すわけねえしな。死刑と銘打った解剖実験されるくらいなら、餌としてこっち側に置いといた方がいいに決まってる」
それに、と千鶴は心の中で付け加える。
俺がここにいなければ起きなかったかもしれないしな。
「まぁそんなのは」
リーゼレッタが加えた。
「建て前の話なのでしょうが」
驚いて振り返った千鶴に、リーゼレッタは微笑を返す。
「嫌みな奴だ」
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