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懐に入れまいとするリフィカルと、鞘さえも盾に間合いを詰める千鶴。
両者の撃ち合いは百を超え、その度に千鶴は伽藍を弾かれ。
だがそれも一瞬、次の瞬間には千鶴の手にそれは戻り、リフィカルはその度にわずかに後退する。
事此処に至り、リフィカルは自らが油断していたことを認めた。
目の前にいるのが人間だという理由で、それだけでわずかに油断していたのだ。
だが、これ以上人間と侮っては、敗北するのは己なのだと。
間合いが離れる。
仕切り直しをする為か、リフィカルは大きく間合いを離した。
「少し、侮っていましたね。人間に堕ちたからといって、どうやら腕自体は堕ちていないようだ」
「お前の腕は、若干鈍ったようだがな」
「なら、試してみますか━━━」
途端。
あまりの殺気に、世界が呼吸を忘れる。
リフィカルの腕が動く。
今までとは違う、一分の侮りもないその構え。
槍の穂先は地上を穿つかのように下がり、ただ、リフィカルの双眸だけが千鶴を貫いている。
「死んでください、我らのために」
「御託はいんだよ、二流野郎」
クッ、とリフィカルの体が沈む。
同時に、茨のような悪寒が屋上を蹂躙した。
空気が凍る。
比喩などではなく、本当に凍っていく。
大気に満ちていたオドは全て凍結。
今この場で呼吸を許されるのはリフィカルだけ。
リフィカルの手に持つ魔槍が、その本来の力が解放される時を今か今かと待ち望んでいた。
ピクリと、槍が動いたのを見て、千鶴は迎撃動作を行った。
だがそれは宙を切る。
千鶴が失敗したわけではない。
ただ単純に、リフィカルがその槍を下ろし、後ろへ飛んだからであった。
五メートルに開いていた間合いが、その跳躍だけで倍は広がった。
「なんのつもりだ、テメェ…」
周囲をざわめかせる千鶴の殺気を受け流し、リフィカルは取り出した時同様、その槍をコートの内側へと戻した。
「いえ、なに。たいした事じゃありませんよ」
戦いの最中にあっても外れることのなかった帽子を右手で直しつつ、リフィカルは懐から三本の試験管を取り出す。
中には緑、青、黄の三色の液体が入っていた。
「研究対象がいなくなったもので。本日はここらでお暇させていただきます」
「逃がすと思うのか?俺が、この状況で」
「逃がして、いただけませんかねぇ…?」
答えは分かりきっているが一応、といった感じでリフィカルは苦笑する。
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