始まりの風は紅かったり違ったり

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  『敏次、いい?あなたはとても優秀だけど、まだ世界を知らないわ。たくさん人と話しなさい。たくさん人と喧嘩しなさい。そしたらちゃんとごめんなさいして仲直りして、世界を少しずつ広げなさい。きっと、その方が楽しいわよ』 それは母の口癖のようなものだった。 人を知れ、と。 人は脆い生き物だから、たくさんの人と関わりを持って、その中で本当に信頼できる人間を一人だけ見つけなさい、と。 そうするだけで人は強くなれるから。 ようやく分かったよ、母さん。 もう少しで見つけられそうなんだ。 本当の、友達って奴が。 「━━━━━!!」 それは一瞬の走馬灯。 戻った意識の先には獣と化した昌浩がいた。 全力全開。 もはや他の術を使えるほどに体力は残っていない。 ならばその一撃に、全ての力を込めるのみ。 「吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇ!」 神速で突き出した拳に、耐えきれなかった血管がブチブチと千切れる音がした。 対して昌浩も拳を振るう。 五行で強化した拳と得体の知れない気に覆われた拳が激突する。 爆音。 敏次の握っていた火呪がその効果を否応なく発揮した。 三十センチに満たない至近距離で食らえば死ななくともかなりの重傷を与えられるが、それは両刃の剣。 当然その猛威は敏次にも襲いかかる。 いや、握っている分を考えればそれは敏次が一番のダメージかもしれない。 だがそれでも、迷い無く敏次は打ちきった。 結果。 「……っは、化け物はそっちじゃねえか」 敏次の右手首から先は消失し、さらに体のあちこちに重度の火傷を負っていた。 昌浩は無傷。 よく見れば、拳の先がわずかに焦げていないこともないが、目に見えての外傷は見あたらなかった。 「━━━━━━ッ!」 ドサリと倒れた敏次を尻目に、昌浩は咆えた。 それだけでセカイは震え、亀裂が幾筋も入っていく。 そうして三度咆えたところで、昌浩もまた倒れた。 あまりに強大すぎた気に、昌浩の身体が耐えきれなかったのだろう。 こうして全ての戦いは終結を迎えた。 ただそれは、始まりの終わりにすぎないのだが。 それはまだ、一人を除いて誰も知る由のない話。
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