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「まぁ簡単に言うと死刑」
あっけらかんと言い放った千鶴に、しかしそれが当たり前だと敏次は自嘲気味に笑った。
「ちょっと千鶴先輩!今回は情状酌量の余地が云々言ってたのに…」
「だから、それも考えての私刑だろうが」
「でもそんな…」
「昌浩、それは君が気に病むことではない」
明らかに落胆の様子を見せた昌浩に声をかけたのは、他でもない敏次だ。
「仕方のないことだと割り切れるものではないが、だからといっておかしいとも思わない」
力なく笑う敏次に、昌浩はかける言葉を失う。
「………ご主人様」
なにやらしんみりとし始めた空気に横槍を入れるように、リーゼレッタは呆れたふうにため息を吐いた。
「どうしてそう人をいじって遊ぶことにかけては抜かりないんですか」
「え~、俺嘘なんか言ってないよ~?」
ぶりっ娘口調の千鶴に、しんみりしていた二人の視線が向けられる。
「どういう意味ですかそれ?死刑ってのは嘘なんですか?」
「うんにゃ、間違いなく私刑だ」
「死刑なんですよね?」
「だから私刑なんだってヴァ」
幸せ星の八重歯キャラのように言った千鶴の後ろから容赦なく、軽く音速の三倍を越えた速度で射出された―正確には振り抜かれた―何かによって、千鶴は頭から窓に突っ込んでそのまま下へと落下していった。
ちなみにここは地上八階である。
呆然と千鶴の突き破った窓ガラスを見ていた二人に、リーゼレッタは特にそれを気にした様子もなく、お騒がせいたしましたと優雅に頭を下げた。
「敏次様の処分は確かにシ刑というのは間違いありません」
「じゃ、じゃあ千鶴先輩を吹っ飛ばしたのは…」
オドオドと聞いた昌浩に、リーゼレッタは間髪入れず、
「字が違います」
とキッパリ言った。
「おそらく昌浩様たちは死刑を考えておられたのでしょうが、ご主人様の言うシ刑は《私》刑です」
私刑。
個人や集団が法律や裁判を無視して加える暴力的な制裁。
別名リンチ。
たぶん死なないだろう。
死なないだろうが…。
「……死んだ方がマシな気がするのは何故だろう」
ブルリと震えた体をさすりながら、敏次はこの上ない恐怖を感じていた。
昌浩もおそらく同じ気持ちだろう。
「気のせいですよ、とか言えないのが千鶴先輩の怖いところですよね……」
やると言ったらやる。
それが柊千鶴の長所でありまた短所でもあった。
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