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あの千鶴による私刑など、考えるだけで背筋に寒気がはしるだけならまだしも、その想像の遥か上をいく何かで、肉体的はおろか精神的に廃人になるまで弄られそうな勢いだ。
「俺の信用の無さがよく分かる言葉をありがとう」
痛たたた、とリーゼレッタに殴られた後頭部をさすりながら千鶴が病室に戻ってきた。
窓から。
重ねて言うが、ここは八階だ。
少なくとも地上二十メートルはあるだろう。
「先輩、血がヒドいんですけど…」
しかも頭部から流れる血が顔全体を染め上げているにもかかわらず、千鶴はまるで何もないかのように窓枠を乗り越えた。
「あぁ、これ?次のコマにいくと治ってるから大丈夫だ」
「これ漫画じゃないんで……」
呆れた風の昌浩に笑って返し、千鶴は頭に手を当てた。
髪の毛で見えなくなっているが、おそらく治癒術式でも働かせているのだろう。
すでに流れて顔に付いた血を、いつの間にか千鶴の傍らまで近付いていたリーゼレッタが取り出したハンカチで拭う。
「あの~…リーゼレッタさん?いきなり後ろから釘バットはさすがにキツいのですが?」
「ご安心ください。これはレプリカですので」
リーゼレッタが左手に持っていた物を胸の高さに持ち上げる。
確かにそれは《釘バット》であった。
野球という競技で攻撃側の選手が使用する道具に釘を打ち込んだもので、通常それは木製バットで制作するものだ。
しかし、リーゼレッタの持っているそれは中身まで全てが鉛でできている。
釘も打ち込まれたものではなく、そもそもそのようにデザインされた、完全統一型だ。
当然それは洒落にならないほどの重量になるわけだが、もちろん人外であるリーゼレッタにはそんなことは関係なかった。
つまり、レプリカであろうがなかろうが、それで殴られれば痛いどころか即死決定である。
「あのですね、リーゼレッタさん。それレプリカはレプリカですけど、本物とほとんど変わらん構造になってんですよ?」
「はい、もちろん存じております。オリジナルとすり替えれば、全く気付かれないかと」
アッサリと答えたリーゼレッタに、千鶴は肩を落とす。
元は麦藁帽子をかぶった、スリーブレスの白シャツに、よれよれでだぼだぼのズボン、両足にはボロボロのサンダルをした殺人鬼の得物がオリジナルなのだが、違いといえばせいぜい血を吸った人数の違い程度だろう。
こうしてまた本題に入らないまま時間は進むのであった。
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