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「やあ、病院はいちゃつく場所じゃないんだけど?」
診察室のちょうど前、中からかけられた声に千鶴は心底イヤそうな顔をするが、しかしそこで無視して行くこともできずにしぶしぶ中へ入っていく。
入った先では、小太りの医者が、回転椅子の上でくるくる回っていた。
自分がカエルに似ていることを自覚してなのか、胸元の名札には小さなアマガエルのシールが貼り付けてある。
「別にいちゃついてねえよ、クソ医者」
悪態をつく千鶴に気分を害した様子も見せず、カエル顔の医者はリーゼレッタの方へ目を向ける。
「う~ん、いつ見ても使い魔っていうのは理解出来ないけど、ネコミミにメイドルックってのは素晴らしいね」
腕を組みながら頷く医者に、リーゼレッタはスカートの裾を摘んで一礼する。
その光景に忌々しげに舌打ちしながら、千鶴は医者とリーゼレッタの間に割り込んだ。
「なんだい、黒龍機関(モータルファクトリー)。独り占めはよくないよ?」
「黙れ変態医者。こいつは俺の物だ。てめぇにとやかく言われる筋合いはねえ」
睨み合う二人。
というより千鶴が一方的に医者を敵視している。
「貸し二回だったよね?」
意地悪く笑う医者に、苦々しい表情を浮かべる千鶴。
「あぁ、確かに今回はあんたの力が必要だった。魔術が便利とは言え、万能じゃない。無からの構築は専門知識の塊みたいなもんだ。俺は医療関係はからっきしだし、ここに医者はいるがあんたほど信頼できる医者はいないからな」
わざわざ外から連れてくるのは楽じゃないんだが、と付け足す。
「確かにあんたにはこれで貸しが二つになっちまったが、まずこれはあんた個人への貸しであって学園都市へじゃない。次に俺の借りであってリーゼのじゃねえから手出し無用。分かってんだろうな?」
大丈夫だよと笑う医者に疑う目つきを送りつつ、千鶴は診察室にあるベッドに腰掛けた。
「大体なんでまだここにいんだ。さっさと帰れ」
「ん~、今はさほど向こうも忙しくないしね、さっきここの医者たちに講習する約束もしたし、あと三日は居させてもらうよ」
「チッ、一方通行(アクセラレータ)の件でごたついてたんじゃねえのかよ」
「あの子はもう大丈夫だよ、十分回復する」
そうかい、と手をヒラヒラさせて千鶴はベッドに横になった。
「仕事終わったら起こせ。話したいことあんだよ」
そう言って目を閉じて、医者の返事がある前に千鶴の意識は落ちていった。
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