始まりの風は紅かったり違ったり

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         六 飲み物を買いに、と言った手前手ぶらで病室に戻るのも気が引けたので、昌浩は四階にある売店に足を向けた。 並んだペットボトルの中から何の変哲もない烏龍茶を選んでレジを通す。 そのまま病室に戻ろうと思ったが、エレベーターに乗ろうとしたところで気が変わり、押そうとしていたボタンを変える。 乗り込んだエレベーターはわずかに振動しながら下へと向かう。 自動ドアをくぐって中庭に出た昌浩は、近くにあったベンチに座ってペットボトルを開けた。 喉が渇いていたのは嘘ではなかったので、冷やされた茶色い液体が喉を通る感覚は気持ちがよい。 一息吐いてペットボトルを足下に置くと、ベンチに寄りかかって完全に力を抜く。 首が背もたれを越えて視界が反転し、当たり前のように逆さまな世界が視界を埋める。 あの力はいったいなんだったのだろうかと自問してみるが、明確にはもちろん、ぼんやりとした答えさえも分からない。 絶迦に貫かれ落ちていった意識の中で問いかけてきたのはいったい誰だったのか。 分からないことばかりで頭がこんがらがる。 「あー、もう!」 叫んで体を思いきり立て直す。 グンと引っ張られた上半身がベンチの前に投げ出され。 「え?」 そんな声が聞こえた。 同じことを心の中で思い、しかしそれは頭部にきた鈍い痛みにかき消される。 「~~~~っ!」 頭突きとは元来、やる側の方が痛いのだ。 固定されているものにこちらの頭を振り下ろすのだから当然ではあるが、そういうものだと覚悟した上でやるのと偶然の産物的にやってしまうのとでは天と地ほどの差がある。 今回は完全に後者であった。 痛みに、しかも相手の頭が動いたため鼻の上も同様にぶつけているため涙も加算されて、のたうち回る昌浩。 しかし相手も同じように頭を押さえてその場にうずくまっていた。 「うぅぅぅ……」 呻き声を漏らす相手に、昌浩はようやく薄れてきた痛みを我慢しながら目を向ける。 「って、彰子?」 まだうっすらと涙の溜めている視界には、これもまた同じように目に涙を溜めている彰子が上目遣いでこちらを見ていた。 「だ、だだだ大丈夫!?」 慌てる昌浩にまだ若干つらそうにしながらも笑って返し、彰子は立ち上がった。 膝まで届きそうなほどに長い黒髪に、今日は中等部の制服ではなく淡い色遣いのワンピースを着ていた。 いつもと違うその姿に、昌浩は言葉を失った。
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