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連れていかれたのは富士の樹海。
仕事の一環だとか言って最奥部に溜まった陰気を祓ってこいとか言われて放り出され、四月末までに帰ってこないと退学だからと飄々と言ってのけ、あげく渡されたのは紙と墨と筆だけ。
なんとか祓ったものの帰りに迷い、命からがら脱出できたものの帰り方が分からず、道路をさかのぼり街へ着き、死にそうになりながら祖父に言われた桟橋に着いて……。
そこからの記憶がなかった。
そもそもあそこには学校のがの字もなかったし、いきなり銃突きつけられるしで、大変だった。
と感慨にふける昌浩。
なんというか、ご愁傷様である。
「あら、起きましたか」
ガラリと部屋のドアが開くと、中に入ってきたのは金髪の女性だった。
長いそれを後ろで何回か結い上げているのが分かるが、それほど派手という感じでもない。
「えっと…すいませんが、ここってどこですか?」
「保健室ですよ」
ですよねー、と返しそうになってヤメる昌浩。
なにやら色々言いたいことはあるが、ここは我慢するしかない。
「平安学園のですか?」
「はい、そうですよ」
微笑して答えた相手に微笑を返して、昌浩は思考する。
どうやら目的地に着いたことは着いたらしい。リミットは今日までだったから、ギリギリセーフだろう。
「あ、すいません。申し遅れましたが、俺安倍昌浩って言います。お世話になりました」
ベッドの上で居住まいを正してから恭しく頭を下げる昌浩。
物心つく前から叩き込まれた行儀の良さは折り紙付きである。
相手は少々面食らったようだったが、そうですかとこちらも椅子に座った状態で居住まいを正した。
「保険医の天原一美と申します。あんまりここに来ないよう、頑張ってくださいね」
ニコリと笑った顔に昌浩はドキッとさせられる。
まぁこの天原一美は相当な美人だから仕方ないと言えば仕方なかった。
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