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死んだ、のか…?
十数メートル吹き飛んだ昌浩を見て敏次は息を吐いた。
呼気と共に鉄の味が口に広がった。
これで立ち上がられたら確実に負けだな。
確かに瞬間移動は使えた。
が、陰陽術との併用はやはり神経系に相当負荷をかけるようで、しかも自分の使える術の最大技でもある絶迦であればなおさらで、全神経が重軽併せて麻痺していた。
かろうじて立っているものの、正直いつ倒れてもおかしくはなかった。
ピクリとも動かない昌浩の様子は気絶しているのか死んでいるのか判断できるものではなく、しかしそこまで歩いていくことさえも億劫で、敏次はまた息を吐いた。
もうどうでもよかった。
憑き物が落ちたとはこういうことを言うのか、と一人で納得した。
そもそも願いは最強。
昌浩相手にこれでは、四柱などまだまだ足元にも及ばない。
これは契約違反なのだから、魂が持っていかれることはないのだろうか。
頭に浮かんだ疑問に苦笑する。
そんなわけがない。
契約は契約。
魂は間違いなく持っていかれる。
そういえば、と敏次は自分に力を植えた悪魔の姿を思い浮かべる。
あれから姿を現さないが、いったいどうしたのか。
元より生真面目という言葉を体現したような敏次は、この状況下において自分の心配より悪魔の心配をし始めた。
もはや生真面目を通り越して馬鹿とでも言えそうだ。
その思考も、しかし半ばで閉ざされる。
不意に吹いた風に頬が切れたからだ。
初めは緩やかだった風の流れは徐々に勢いを増し、吹き荒れる。
これは……
「大気(オド)か…!」
世界の力。
セカイの摂理。
それが昌浩を中心に渦を巻く。
それは先ほどの敏次がやったような空気の渦ではない。
世界そのものとも言える気が、収束していた。
むくり、と昌浩が身を起こす。
生きていたか、と敏次はやや安堵した表情を見せたが、それはしかし驚愕に見開かれる。
昌浩は大気(オド)を纏っていた。
それはすなわち、世界を纏うのと同じ。
普通の人間であれば、一秒だろうが保ちはしない。
だがそれでも、昌浩は当然のように立っている。
その目に光はなく、虚ろに、深淵の闇より深い黒が映っている。
ゴクリと敏次は喉を鳴らした。
恐怖ではない。
ただそこに飲まれそうになり、敏次は悲鳴をあげる体を無視して一歩踏み出す。
「━━━━━━━ッ!!」
昌浩が叫んだ。
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