君と過ごした愛しい時間

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でも、返事はそっけないものがほとんどで、話題が弾むことなんて、ないに等しい。 ただ、時々莉音さんは、オレに色々な事を教えてくれる。 俺は、「そうなんですか?」しか言えない。俺の中に、今まで入っていたものが少なすぎるから、そういうことしか言えない。 俺は莉音さんと話せて、こうやって隣にいられるだけで幸せだと、感じていたから。 ――恋人じゃないけど、友達にはなれてるのかな? 電車の中での関係。ただ、それだけだった。 デートなんてのもしたことないし、住所も知らない。知っているのは、名前と、年齢と本がすきってことだけ。 俺は騒がしくて、結構お祭り大好きで体育会系だけど、莉音さんは静かで、穏やか、文科系だ。 「ねえ、知ってる?地球は約320年後には第二の金星となってるんだ」 莉音さんは、とにかく博識だった。 何でも知っていた、今まで狭かったオレの視野は、莉音さんにどんどん広げられていった。 「220年後には、地球の平均気温は100度になって、人類は絶滅するんだって」 俺の中には、テニスしかなかった。 でも、地球のこと、政治のこと、歴史のこと、食べ物のこと、宇宙のこと……莉音さんに聞くたびに、オレの知識はどんどん増えていった。 俺は、どんどん莉音さんに惹かれていったんだ。 そんな時間が大好きだった。
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