35人が本棚に入れています
本棚に追加
『ねえ、知ってる?』
そう言って、俺の瞳を見つめてくる莉音さん。
『ありがとう』
そう言って俺に微笑みをくれた莉音さん。
そして、最後の、いや、最期の笑顔――
莉音さんは、もうどこにもいない。その事実だけが漠然と胸に襲いかかってきた。
「緋色、でてきなさい、早く」
「うっせーな! 姉ちゃんはどっかいけよ! 」
俺は、初めて姉ちゃんに反発したかもしれない。
今まで、姉ちゃんに逆らったことなんて、なかったから。
姉ちゃんが、小さく嗚咽を漏らしてドアの前から退くのが分かった。
階段を降りる音も聞こえてきた。
どうして、どうして、莉音さんが死ななきゃいけなかったんだろう。
犯人、捕まったらしいけどまだ生きてるんだよな。
なんで、莉音さんはもうこの世にいないのに、犯人は生きてるんだ?
あそこは、よほどのことがないかぎり、死ぬことはないんだろ?
「莉音……さん……」
俺は、初めて涙が出た気がした。
莉音さんの名前を出すだけで、こんなにも涙が出てくるなんて。
胸が、張り裂けそうだった。心臓を取り出せば、楽になるのかな?なんて、頭のどこかで思ってしまった。
ああ、そうだ。心臓を取り出せば莉音さんのところにいけるかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!