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その日の練習では8月にスペイン遠征に行くことが発表された。
何でも向こうのユースチームが参加する大会に日本を代表して出場するそうで、今年は幕張SCが選ばれたらしい。
怜にとって初めての海外、それもサッカーに情熱を注ぐ国スペインに行けることは喜ぶべきことだった。
しかし怜には素直には喜べなかった理由があった。
それは拓也の存在だった。
勝負の世界は実力次第とはいえ、怜をこのチームに誘ってくれたのは拓也である。
その拓也はBチームでずっと頑張っている。
後から入った自分がスペインに遠征に行くのは良いのだろうか、と怜は葛藤していた。
「何だ、そんなことか。何も気にしなくていいじゃない。」
その日の帰り道、遠征の話をしたら拓也はあっさりとそう言った。
「でも……何か拓也に悪いなと思って」
「同情されるのは好きじゃないよ。
それに遠征まで4ヶ月もあるし、それまでに絶対にAチームに上がってみせるから……」
怜には拓也が無理に笑顔を作っているのがわかった。
彼の視線から逃げるように顔を逸らしてしまった。
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