第一章~親愛なる破戒僧~

8/56
前へ
/273ページ
次へ
つつつ、かこん。 小気味良い音を鳴らし、鹿威は反復する。 風流なBGMを、時折耳に挟みながら、彼らは打ち合わせを続ける。 「では本日の業務内容発表の前にー、ね。ヴァン、密教って知ってるか?」 大輝が唐突に聞いてきた。 頭を掻きながら、ヴァンは脳のメモリーから情報を取り出そうと試みる。 「えーと……確か仏教から派生したやつ、だよな。空海って坊さんが唐から持ってきたんだとか」 「んー、まーそうだね」 「及第点は?」 「差し上げましょー」 「っしゃ」 「及第点で喜ぶ?」 ……安いコントはさておき。 密教 7世紀後半、インドで成立した仏教の流派のひとつである。 凡父、つまり普通の一般人には理解し得ない深遠にて教えられる、秘密の教えという意味である。 仏教と同じく、大日如来を根本の仏としている。 「で、それが仕事と関係あるのか?」 「ありありー。と、ここから本題なんだけど…」 もったいぶって大輝は一息吐いてから、語る。 「どうやら、その密教から破戒僧が出たらしくてね」 やれやれというニュアンスを示す、ボディランゲージを見せた大輝。 具体的には、両手を肩の位置まで挙げて、首を左右に振った。 そして、破戒僧という言葉、その存在にも触らなければならない。 どんな流派にも守らなくてはならないルールがある。 この流派は、それぞれが属す“社会”、と訳しても良い。 現代一般例で言うなら、人を殺してはいけない、とか。 仏教や密教の場合、そのルールを破った者は、戒(ルール)を破った僧、それをそのまま並び替えて、破戒僧と呼ぶ。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加