241人が本棚に入れています
本棚に追加
つつつ、かこん。
小気味良い音を鳴らし、鹿威は反復する。
風流なBGMを、時折耳に挟みながら、彼らは打ち合わせを続ける。
「では本日の業務内容発表の前にー、ね。ヴァン、密教って知ってるか?」
大輝が唐突に聞いてきた。
頭を掻きながら、ヴァンは脳のメモリーから情報を取り出そうと試みる。
「えーと……確か仏教から派生したやつ、だよな。空海って坊さんが唐から持ってきたんだとか」
「んー、まーそうだね」
「及第点は?」
「差し上げましょー」
「っしゃ」
「及第点で喜ぶ?」
……安いコントはさておき。
密教
7世紀後半、インドで成立した仏教の流派のひとつである。
凡父、つまり普通の一般人には理解し得ない深遠にて教えられる、秘密の教えという意味である。
仏教と同じく、大日如来を根本の仏としている。
「で、それが仕事と関係あるのか?」
「ありありー。と、ここから本題なんだけど…」
もったいぶって大輝は一息吐いてから、語る。
「どうやら、その密教から破戒僧が出たらしくてね」
やれやれというニュアンスを示す、ボディランゲージを見せた大輝。
具体的には、両手を肩の位置まで挙げて、首を左右に振った。
そして、破戒僧という言葉、その存在にも触らなければならない。
どんな流派にも守らなくてはならないルールがある。
この流派は、それぞれが属す“社会”、と訳しても良い。
現代一般例で言うなら、人を殺してはいけない、とか。
仏教や密教の場合、そのルールを破った者は、戒(ルール)を破った僧、それをそのまま並び替えて、破戒僧と呼ぶ。
最初のコメントを投稿しよう!