出発前日

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「この事件……僕たちが調べてきたどの書物にも載っていませんでしたが……。」 「山本君、君が調べてきた書物に載ってるはずがないんだ。 まず、未開拓の孤島であるということで、極端に資料は少なかったはずだ。そうだろ?」 「ええ。」 「しかも事件は容疑者が餓死した、ということで解決しているんだよ。 一時的に有名になっただけで、新聞に載った程度にしかならなかったんだ。」 「教授。」 田中が声をかけた。 「自分が次に質問してもいいですか?」 「どうぞ?」 「教授はそんなに少ない情報の中から、こんなに沢山の情報を手に入れたのですか?」 教授は常に冷静を装っていた。だが、次第に涙は目の中に溜まっていった。 ああ、その時の教授の顔といったら。 まさに鬼の目に涙。厳格な教授は必死で涙をこらえ、それ故に恐ろしい形相をしていたのだ。 「それは……」 教授が一息つく。微かに声が震えている。 「殺された研究員の中に、私の息子が居たからだよ。」
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