生還した男、語る。

4/4
前へ
/60ページ
次へ
「マスコミには言わなかったが……あの孤島には感染病が存在するんだ。」 「感染病?」 私は息を呑んだ。感染病など初耳だったからだ。世間では飢餓から一人が発狂したものだと言われていたのだ。 「ああ。だが、感染経路はわからない。 知らない内に感染している。」 私は体を大きく乗り出した。 「俺たちの体験から、人から人には感染はしない、非常に感染力の弱い菌であることはわかった。 でも感染すると厄介だった。 感染……すれば発狂し、目の前にいる人を片っ端から殺しだすんだ。 潜伏期間は不明、さまざまな症状が現れた挙げ句、人を殺害するようになる。」 私は大きく目を見開いた。緊張のあまり、蚊の鳴き声のような声で喋るのが精一杯だった。 「さまざまな症状とは?」 「色の識別が困難になるようだ。それに……被害妄想が激しくなる。あとは、目の色が変化する……」 すると突然、彼の顔色がより一層青白くなり、今にも目が飛び出しそうなほど見開いた。 「あああ!思い出したくない! あの悪魔のような目の色を!!!」 「あの……大丈夫ですか?」 彼はガチガチと歯を鳴らしていた。私は緊張のあまり心臓が爆発しそうだった。 「出てってくれ……」 「なっ……」 「1人にしてくれ!!!!!」 私はこの時、恥ずかしながら恐怖に支配されていたのだ。 言われるがままに外に出ようとした私に、彼は最後にこういったのである。 「最後に聞く……あんたは行くのか?あの孤島に……。 もし……もし仲間を連れて孤島に向かうなら……感染病には気を付けろ……。 感染者は殺せ、殺されるぞ……。」 恐ろしい言葉である。この言葉はこの日以来、私の心に常につっかかっていた。 私が彼と会ったのは言うまでもなく、これが最後であった。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

464人が本棚に入れています
本棚に追加