7人が本棚に入れています
本棚に追加
…カツンカツン…
バイトの帰り、背後からそんな音がした。やや肌寒い季節、誰もいない通りに響く。響きから革靴と判断できた。
『会社帰りのおじさんかな』
私の歩みは一般に比べ早い。しかし音はついてくる。外は寒い。早く帰りたいのだろうか。
夜道、背後に人がいたら気になるもの。そして振り向きたくなるものだ。私も、その例に漏れず、振り向いた。
誰も、いない。
…カツンカツン…
…カツンカツン…
誰も、いない。
しかし私の数メートル後ろから、音だけがする。
誰もいない暗闇から、靴音だけが響いてくる。
何故私は、革靴の音を男性のものだと判断したのだろう。時間は、まだ八時。
バイト帰りに、会社帰りの人など、見たことはなかった。
…カツンカツン…
ふと、音が遠退いた。
靴音が、道を曲がっていったのだ。
「あっちに家があるのか…」
そう呟く間に、音は聞こえなくなった。
私はマフラーを巻き直すと、家に向けて歩を早めた。
最初のコメントを投稿しよう!