カツンカツン

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…カツンカツン… バイトの帰り、背後からそんな音がした。やや肌寒い季節、誰もいない通りに響く。響きから革靴と判断できた。 『会社帰りのおじさんかな』 私の歩みは一般に比べ早い。しかし音はついてくる。外は寒い。早く帰りたいのだろうか。 夜道、背後に人がいたら気になるもの。そして振り向きたくなるものだ。私も、その例に漏れず、振り向いた。 誰も、いない。 …カツンカツン… …カツンカツン… 誰も、いない。 しかし私の数メートル後ろから、音だけがする。 誰もいない暗闇から、靴音だけが響いてくる。 何故私は、革靴の音を男性のものだと判断したのだろう。時間は、まだ八時。 バイト帰りに、会社帰りの人など、見たことはなかった。 …カツンカツン… ふと、音が遠退いた。 靴音が、道を曲がっていったのだ。 「あっちに家があるのか…」 そう呟く間に、音は聞こえなくなった。 私はマフラーを巻き直すと、家に向けて歩を早めた。
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