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薄れる意識の中で瞼を閉ざした。
掠れた祈りのような、女の囁きが段々と遠のいていく。
囁きを耳鳴りのような甲高い音が邪魔した。
ブツッ、と、場にそぐわぬ音がしたと思った瞬間首の圧迫感が消え大量に肺へと送られる酸素に噎せる。
急速に現実へ引き戻されると同時にひんやりとした地面の固さを感じた。
倒れたのか、俺は。
目の前には、一向に流れようとしない黒ずんだ血をまき散らした、女がいた。
その向こう側に、傷だらけの黒いブーツ。
「生きてるだろ。優しさと計画性の無さが仇になったがな」
どうにか目線だけ上を向くと、光流の呆れた顔が見下ろしていた。
そんな気がして、安心しきった表情で吾大は意識を手放した。
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