1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
沢山の荷物の入った、大きめのトートバッグが肩に食い込む。反対側の肩に持ち替えて、私は緑色の木漏れ日の中を進んだ。
懐かしい道。
目を細めて先を見ると、よく見慣れた噴水が、柔らかな太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
あの日の事は、今でもまるで昨日の事のように思い出す。
忘れられない、忘れたくない、大切な思い出。
ふと、顔に水滴が落ちた。上を見上げると、ポツリとひとつ。またひとつ。
――天気雨、か。
私らしい。うん、私らしい。なんたって私は雨女だもの。
私の肩を濡らす天気雨。でも歩調は変わらない。ゆっくり、ゆっくりこの地を踏み締める。
いつも傍にいてくれて、傷付いた私を励ましてくれたあの人は、私に何を見ていたのだろう。何を思ってこの道を歩いていたのだろう。
…しあわせ、だった?
雨のベールと微かな土の匂いに包まれながら、あの日の足跡を辿ると、あの時には見えなかった何かが見えてくるような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!