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空は、灰色だった。雨が降り続き、肌寒い日だった。
まるで降り止むことを知らないかのように、ただひたすら、冷たい雨が、空から降り注いでいた。
僕は今、とある葬式に出席している。
故人の名前は、
戸倉紗弥加。
僕の彼女だ。
小さなフレームに納められている彼女は、いつものように、屈託のない笑顔だった。
ザァザァと雨が降っている。
傘を持つ手とは逆に、僕の体の左側は少し塗れていた。
僕の左の手のひらの中には、僕の薬指にしている指輪と同じデザインのものが、握られている。
僕のよりも、かなり小柄で、小指にも入らないくらいの大きさだ。
僕の指輪は雨に濡れて、まるで、居場所を無くした小さな指輪を、片割れの存在意義が無くなったことを、悲しんでいるかのように見えた。
僕はというと、涙は出ない。
わからないんだ。
今、なにがどうなっているかとか、彼女がどこへ行ってしまったのか、という事も。
ただ…ひたすら、時がたつのを待ち、自分の頭の中を必死で整理しようとしていた。
まとまらない考え。堂々巡りな思考。
自分はどうしてここにいる?
わからないんだ。
君を探しても、どこにもいない。
まるで、夢の中にいるようだった。
ただ、2人の共通の友人が、元気出せよ。と泣きながら僕に話しかける。
僕は至って普通だ。
誰か…僕の頭の引き出しを整理してくれないかな?
いろいろなものがぐちゃぐちゃにしまわれているみたいだ。
整理ができない。
いや………?
整理しようとしていないのかもしれない。
現実を知るのが…怖いのかもしれない。
ただ、僕はひたすら立っていた。
そんなふうに、考えながら。
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