6人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
僕は大塚俊。
葬式会場で唯一この状況を飲み込めていない、哀れな男だ……。
ただ…いつも左側にいた彼女の姿だけがないことは理解していた。
ふと頭をよぎったのは、彼女の何気ない一言だった。
《俊は、傘をさすのが苦手でしょ?…だから…》
その先が思い出せない。何気ない一言だった。でも…今では…その言葉さえも、かけがえのない一言になっている。
思い出さなくちゃいけない。
彼女とのかけがえのない思い出を…………………。
そしたら、彼女が…紗弥加が笑ってくれるような気がしていた…。
いつだっただろうか………。
紗弥加と初めて逢ったのは…
確か…………。
そうだ…高校1年生の春だ。
入学式でひときわ目立つ紗弥加がいた。
新入生代表で挨拶をする紗弥加の、強くて優しい眼差しが、とても印象的だった。
そして…そのまま初めての恋をした。
紗弥加に比べると僕なんて、たかがしれていた。
成績は並、顔も並、性格だって悪くはないが、良いわけでもない、身長だって、並だ…………。
紗弥加はというと、美人!!というよりは、可愛くて、おっとりしてそうで、優しいお嬢様という印象があった。
もちろん、恋に落ちたのは僕だけではなかった。
隠れマドンナ。なんていわれてたっけ…………。
恋をして、紗弥加を意識して、1年片思いをした。
たまぁに、同じ委員会の仕事で顔を合わせる程度の仲だった………。
いわゆるその他大勢の一人というやつだ………。
最初のコメントを投稿しよう!