灰色の空

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僕は大塚俊。 葬式会場で唯一この状況を飲み込めていない、哀れな男だ……。 ただ…いつも左側にいた彼女の姿だけがないことは理解していた。 ふと頭をよぎったのは、彼女の何気ない一言だった。 《俊は、傘をさすのが苦手でしょ?…だから…》 その先が思い出せない。何気ない一言だった。でも…今では…その言葉さえも、かけがえのない一言になっている。 思い出さなくちゃいけない。 彼女とのかけがえのない思い出を…………………。 そしたら、彼女が…紗弥加が笑ってくれるような気がしていた…。 いつだっただろうか………。 紗弥加と初めて逢ったのは… 確か…………。 そうだ…高校1年生の春だ。 入学式でひときわ目立つ紗弥加がいた。 新入生代表で挨拶をする紗弥加の、強くて優しい眼差しが、とても印象的だった。 そして…そのまま初めての恋をした。 紗弥加に比べると僕なんて、たかがしれていた。 成績は並、顔も並、性格だって悪くはないが、良いわけでもない、身長だって、並だ…………。 紗弥加はというと、美人!!というよりは、可愛くて、おっとりしてそうで、優しいお嬢様という印象があった。 もちろん、恋に落ちたのは僕だけではなかった。 隠れマドンナ。なんていわれてたっけ…………。 恋をして、紗弥加を意識して、1年片思いをした。 たまぁに、同じ委員会の仕事で顔を合わせる程度の仲だった………。 いわゆるその他大勢の一人というやつだ………。
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