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永い永い夢からようやく目を醒ました時には、すでに1年半もの月日が流れていた。
心配そうに顔を覗き込んで来る窶れた顔の母親に、彼は笑顔を向けるでも無く、むしろ悲痛な表情を浮かべ、母親に頭を下げた。
――生きててごめん…何の役にも立てずに申し訳ない……。
と。
死ねば良かったのに…と独り言ちる息子に、母親は酷く胸を痛め、それでも、生きてさえいればやり直しは幾らでも出来ると、根気よく説得した。
その結果、織人はどうにか母親の意を飲み込み、それから約半年は体力を戻すべくリハビリに励む。
通常生活が送れるだけの体力が戻ったと診断が下されると、病院からの通告で彼はすぐさま、地下都市スノードームへと連行された。
銃を構えた自衛隊員に散々小突き回され、乱暴に牢屋へと突っ込まれる。
そんな手荒い扱いにすら、織人は反抗するでもなく、弱音どころか感情すら露にする事は無かった。
母親の意は汲んだものの、明日へ生きる希望さえ見い出せず、半ば生きる屍と化していたのである。
暗く鉄格子が並ぶそこには、冬だと言うのに暖房さえつけられてはおらず、埃臭い毛布一枚与えられただけで、毎日をガタガタと震えて過ごした。
何となく、右隣りの鉄格子に目を向けると、同じく毛布にくるまり、震えてカチカチと歯を鳴らす女の子がおり、左隣りには横になって小さく身を縮めている、自分と同じ歳かさの男がいる。
「お前ぇも捕まった口か?」
彼の発した言葉は偉く汚い言葉使いだったが、織人は気にせずに答える。
「いや、俺はここに望んで来た」
真顔で応えた織人に、男は盛大に顔を歪め、
「はっ、酔狂なこった」
と言葉を吐き捨てる。
それっきり会話は途切れ、彼は毛布を引き寄せると再びごろんと横になった。
やがて、牢屋生活が2週間にもなる頃、織人は別室へと連れ出され、毎日顔を合わせていた女医と、司令官なる男に特殊部隊ブリザードへの入隊を告げられたのだった。
翌日、ようやく暗くて寒いだけの牢屋を出され、暖かい会議室へと通される。
背後には常に銃を構えた兵士付きだったが、あそこにいるよりは余程良い。
集められた人数は僅かに2名足らず。
織人と右隣りの格子牢にいた女の子だけだった。
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