5人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
フローにとってそれは、初めて見る『ご近所さん』だった。
私の中から初めて飛び出した彼女は、斜向かいの家、エヴァンズ家の次男と出会った。
プラチナブロンドの髪、翡翠色の瞳をした少年、ウィリアム・エヴァンズはフローに尋ねた。私を指差して、君はこの家の子かい、と。
フローは静かに頷いた。そう、と小さく呟き、ウィリアムはフローに、今度は名を尋ねた。躊躇いがちにフローは答える。フローレンス。
それを聞いたウィリアムは、口笛を鳴らした。ナイチンゲールと同じ名前だね、と。
彼女の母親がつけた名前だ。フローを私の中から出そうとしない、母親が。
母親の名前はフランソワーズ。外の世界では歌手だった。しかしある日、喉の病気を患い、歌手生命を断たれたのだ。
彼女は自らと世界を隔離した。十年ほど前の事だ。その後、フローを宿し、私の中にある風呂場で産んだ。
父親が誰かは解らない。あの頃、沢山の男が私の中に入れ替わり立ち替わりしていた。
私の中を居心地が良いと言ってもらえるのは嬉しい。私はフランソワーズが幼い頃、彼女の両親によって建てられた。
最初のコメントを投稿しよう!