ナイチンゲール

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 フローにとってそれは、初めて見る『ご近所さん』だった。  私の中から初めて飛び出した彼女は、斜向かいの家、エヴァンズ家の次男と出会った。  プラチナブロンドの髪、翡翠色の瞳をした少年、ウィリアム・エヴァンズはフローに尋ねた。私を指差して、君はこの家の子かい、と。  フローは静かに頷いた。そう、と小さく呟き、ウィリアムはフローに、今度は名を尋ねた。躊躇いがちにフローは答える。フローレンス。  それを聞いたウィリアムは、口笛を鳴らした。ナイチンゲールと同じ名前だね、と。  彼女の母親がつけた名前だ。フローを私の中から出そうとしない、母親が。  母親の名前はフランソワーズ。外の世界では歌手だった。しかしある日、喉の病気を患い、歌手生命を断たれたのだ。  彼女は自らと世界を隔離した。十年ほど前の事だ。その後、フローを宿し、私の中にある風呂場で産んだ。  父親が誰かは解らない。あの頃、沢山の男が私の中に入れ替わり立ち替わりしていた。  私の中を居心地が良いと言ってもらえるのは嬉しい。私はフランソワーズが幼い頃、彼女の両親によって建てられた。
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