ナイチンゲール

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 フローはふらふらとその赤に近寄っていた。その発生源は、ウィリアムだった。触ってみると、ぬるっとした液体が手に着いた。  それが血であるとフローが理解した時には、ウィリアムは既に息を引き取っていた。何度体を揺すっても反応が無い。  初めて人の『死』に対面したフローは訳が分からなくなり、ただウィリアムの名前を泣き叫んだ。  いくら泣き叫んでもウィリアムが動き出さないので、フローは立ち上がり、またふらふらと歩き出した。  私に向かって歩いてくる。緑色の屋根、クリーム色の壁、蔦の這う塀で出来た、私の中へと戻ってきた。  扉を勢いよく開ける。肩で息をし、とめどなく涙を流している。  フローはまだ知らない。居間で母親が、ウィリアムと同じ状態になっていることを。これから自分も同じ目に遭うであろう事を。  居間には見知らぬ男が一人。そう、ニュースで見た、通り魔事件の犯人だ。  ぱたりと静かに扉が閉まる。自由におなり、可哀想なフローレンス。おかえり。
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