霧子

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鬱蒼と茂る木々。 風は冬を終えたばかりで少し冷たく、木々が優しく囁く。 至る所には木漏れ日が射していた。 その地を踏む音。 狩衣を纏った華奢な容姿の者がたった一人で森の中にいた。 辺りに人はいないので風に揺れる木々の音だけが木霊する。 髪は肩の下まで長く、後ろの首筋でぬばたまの黒髪をくくっている。 一見女性の様に見える面立ちだ。 その者は大木に寄りかかり腰を降ろしていた。 何本か生け採った花を握り、そっと地に置く。 まるで誰かに手向けるかのように。 静かに涙を流しながら。 .
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