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丁度辺りが薄暗くなる時刻に霧子は家に辿り着いた。
門の前に立ち、じっと正面を見る。
霧子はしたっぱ貴族だ。
敷居は常人のそれより少し大きいが、他の貴族に比べれば足元にも及ばない。
霧子は二人の兄妹がいる。
五つ程上の兄、三つ程下の妹だ。
この邸には、霧子と兄を含め両親と父の弟とその妻が住んでいる。
霧子の母と叔父の妻は余り仲が良くなく、確執があった。
それには根本的な深い原因が有るのだが。
扉を開け、敷居に入る。
すると其処には兄、伸彦(のぶひこ)がいた。
「霧子、母君がお呼びだ。」
「……すぐに向かう。」
素っ気なく返事をすると伸彦の脇をすり抜けようと足を速めた。
「………霧子。」
霧子は足を止めた。伸彦は哀しみを含んだ表情で霧子を見た。
「女人に戻る気は無いか?」
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