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松阪が電話で加藤と話しているその時間、品川駅から少し離れた場所に有る、4階立ての古い雑居ビルに40代の男が辺りを気にしながら入っていった。
男は3階まで階段を上がると、中田商事という看板の掛かるドアの前に立ち、扉の上にある監視カメラに向かい手を挙げた。
ドアの向こう側に気配がすると、カギの開く音と共に20代の男がスーツ姿でドアを開ける。
「中田さん、こんにちは」
扉を開けた男が言うと、
「違うな。
社長、おはようございますだ……
鈴木君」
中田と呼ばれた男は鈴木を見て薄い笑みを浮かべ部屋の中に入っていった。
16畳位の広さの部屋の中は、段ボールが乱雑に詰まれ、部屋の中央には簡素な応接セットが置かれている。さらに部屋の奥に、事務机が置かれ机の上にはノートパソコンと小型の卓上テレビが置かれていた。
中田が応接セットのソファーに着ていたジャケットを投げ、事務机の椅子に腰かけると、鈴木が給湯室からお茶を2つ持って現れた。
「すまんな鈴木君」
「いえ、同志」
鈴木が朝鮮語で同志と言った瞬間中田が鈴木に向け鋭い視線を送る。
視線に気付き、慌てて鈴木は姿勢を正した。
「いいか、君は先日、日本に来たばかりで細かい事が解らないだろうが、くれぐれも母国語は使わないでくれ、それからな……
そのかたっくるしい姿勢もしなくてよろしい」
中田に言われ鈴木は背筋の力を抜いた。
「すいませんでした、社長。
ところで山手線が止まっているみたいですが何かあったんでしょうか?」
「どうせ贅沢な日本人が自殺でもしたんじゃないか?」
中田は鈴木の煎れたお茶をすする。
「それが全線止まっているみたいなんですよ……」
何?っと中田が言おうとした時、ソファーに投げたジャケットから携帯電話の着信音が流れた。
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