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「君のその笑顔が見られなくなるのは寂しいな…
でも、残酷な事実を君に伝えなければね…」
抱き締めた腕を解く事もせず山南は呟いた。
女はキュッと着物を掴んだ。
きっとこれから愛しい男が何を言おうとしていたのか分かっていたのだろう。
けれどその現実を受け止める事が出来なかった。
嘘だと…信じていたかったに違いない。
「私はね…今日切腹する事になっているんだ。」
しかし男の口から発せられた言葉にそんな微かな希望も消し去られた。
「…あんさんが…何したん?」
暑くなる目頭に必死に力を込める。
「さぁ…自分でもなんて言ったらいいのか分からないんだ。」
笑顔の消えた女の頬を優しくそっと撫でてやると、目から一筋の涙が首筋へと落ちる。
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