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そう、冷静に判断している場合ではない。
手にはさっきまで林檎を剥いていた包丁を握り、リビングの方へとゆっくり、ゆっくり歩いていく。
「正当防衛よ、正当防衛…正当防衛…」
こういう時のために柔道や合気道は習ってはいたが、本格的には習わず中学に入ってやめてしまった。相手が武器を持っていたのなら、こちらも武器を持ってもおかしくないはず。
…だからって、泥棒相手に女子高生に包丁握らせないでよ!
と、泣く泣く包丁を握りしめ、恐る恐る近づく。あたしはリビングのドアを、勢いよく開けた。
「誰!?」
割れた窓からは、十一月の寒い風が流れてくる。カーテンは揺れ、ガラスは辺りに散らばっていた。
「………あれ」
誰もいない……
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