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「ったく、あの係長は頭が旧式すぎる。だからいつまでたっても…」
今の会社に勤めて3年目、なかなかうまくいかないのはわかってる。わかってる、はずだ。
でもここまでとはおもわなかった。
僕は春先の駅が、電車が嫌いだ。
新しい環境に馴れない学生やら新入社員やらがウヨウヨしている。
こいつらはまだ流れというものを知らない。だから、真新しい学生服の女子高生が改札で前にいてはさまれるとか、前行く新入社員風の男が急に足を止めてかばんをまさぐり出したとか、そういった些細な事でいらついてはいけない。
自宅のある吉田山方面の電車に乗る。
「座るのは無理か…。」
座席は満席、立っている人の数はそこそこといった感じだったが座席の近くには予約待ちの人がいた。
電車はやはり混んでいた。
山田太郎はそう思った。
出入り口近くのパイプにつかまると、目の前には何処かで見覚えのある女性がいた。
「………」
小さい体に丸い顔。ドア横の手すりを背に、後ろ手にもう片手で携帯電話を弄っている。
知ってる。こいつ、僕と小・中学校が一緒だったやつだ。
名前は…桐崎周(きりさきあまね)、
話しかけたい。
彼女が携帯電話をしまいこちらを見る。目を見開き口が開いていく。
頬が上がる。
「山田ぁ!」
声がでかい。車内の空気が変わる。
乗客の視線が背中に突き刺さりまくる。
僕は背後を無視するように眉をあげ、目で笑顔をつくる。
「……おう。」
「覚えてた、ボクの事?」
「あぁ。まあ。」
僕は曖昧な返事をした。
そういえばこいつ、自分のこと「ボク」とか言ってたな。
なんていったかな、あの女魔導士が出てくるパズルゲーム。あれやってたら影響受けたとか、意識してやってるとかは聞いたことがあるが、まだ言ってるんだ。
「未だにその口調なのな」「へっへー、まあねー」
「いつも、こんな時間だったの。気付かなかった」
「いや……、いつもは、っていうか今日は3時には仕事終わってたんだけどね。」
「そう。」
「まあ、これでしばらく吉田山まで暇せんでいいわ」「あ、ボク切ヶ峰で降りるから…」
「へ?そう。」
切ヶ峰は吉田山の二つ手前の駅だが。
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