第三楽章:哀歌(エレジー)カタルシス

2/9
前へ
/47ページ
次へ
   とてもとても小さかった頃から、愛砂は表情の乏しい娘だった。 それでもあの頃よりは笑っていたと思う。     ―――― そうあの頃よりは……。      愛砂が死を望むようになったのは、小学校低学年の頃のイジメがきっかけであった。  よくある話だった。    ある朝、それは始まった。 扉を開くと、クラス全員からの集団無視と教室に訪れた静寂(しじま)、自分に集中する視線。 部屋の中央に放置された愛砂の机には、呪咀の如く悪意ある言葉の羅列が書き込まれていた。 どこからか忍び笑いが洩れ、周囲に伝染していく。    耳から離れない。 あの声……。 吐き気を催す、皆の笑み。     ―――― そうか、次はあたしなんだ……。     ―――― あたしが次の的なんだ……。      すぅっと心が冷たくなるのを感じた。 屈辱だった。腹立たしく、悲しく……同時に恥ずかしかった。 心がスカスカになったような、何かを失ったようなあの感覚……。    イジメは毎日のように行われた。 持ち物は隠され、愛砂に聞こえるように悪口は言われ、根も葉もない噂が広がっていった。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加