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―――― 綺麗……どこだろう、ここ……。
地球でもなく天国とも違う場所。
生きているようだが、死んでいるような感覚。
ここがどこで、なんでここにいるのかすら何一つわからなかったが、愛砂にとってはどうでもいい事であった。
死にたかったから。
もうあんな日常から……全ての柵(しがらみ)から解放されたかったから……。
だから愛砂にとって今のこの状況は、ありがたい展開に思えたのだ。
ふと視線を落とすと、自分がネグリジェのような、ゆったりとした白い服を着ていることに気付いた。
水面に付きそうだった裾を少し上げたとき、足元に転がっていた球体の一つが燦然と輝いた。
水中から掬い上げてみると、それはゆっくりと浮かび、まるでマグネシウムが燃える時の如く激しい光を放ち、光の粒子を振り撒きながら一瞬で上空へと消えていった。
空に浮かぶ、惑星に向かって……。
愛砂は、しばし呆然とその場に立ち尽くしていた。
―――― チリーン……。
鈴の音が聞こえたかと思うと、さぁっと一陣の清風が吹き、鴾色の花弁が舞った。
振り向くと、花の風巻(しまき)とともに一隻の白銀に輝くゴンドラが、こちらに向かってゆっくりと進んでくる。
凪を裂いて進むゴンドラには、朱色の番傘を差した人が一人乗っていた。
ゴンドラは何もせずとも勝手に進み、静かに愛砂の隣で止まった。
「その球体は魂なのですよ。朽ち果てた全ての者の」
静かだがはっきりと響く低い声でその人は言うと、ゆっくりと傘を揚げ、微笑んだ。
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