第一楽章:始まりの独唱歌曲(アリア)

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   そのあまりの美しさに、愛砂は目を奪われた。    滑らかな雪の肌。 複雑に結い上げられた長く美しい漆黒の髪は、月影が照り返す夜の海面のように煌めく。 切り揃えられた前髪から覗くのは、鉄(くろがね)色の瞳。 薄く紅を引いた口唇は艶やかにして、美しさに拍車をかける。 幾重にも重ねられた白い着物は、光の反射により次々と色を変えていく。 女性と紛うほどの美しい男性であった。  それが誰なのか、愛砂にはなぜかわかっていた。     ―――― 神……様……。      微風が二人の間を駆け抜け、鴾色の花弁が花吹雪のように舞う。   「死んだ者の魂は全てここへ導かれ、水中で幾千年と眠りながら浄化されていき、球体へと形を変えていくのです。完全な球体になりし時、空へと昇り、現(うつ)し世へと降る……かくて再び人に宿る……生まれ変わる、と言うのでしょうね……魂の輪廻……無始壙劫と万物は流転するのです、いつも」    歌うようにそう言うと、彼は白く細い手を差し伸べてくる。   「ここは魂の浄化地点・エリュシオン。貴女は肉体がまだ生きていて、魂のみがこちらへ迷いこんでしまった状態です。浄化とは即ち、生前の記憶を消し、癒すこと……ですからこのままここに居続ければ、徐々に浄化され、あちらへ戻れなくなります……さぁ、乗ってください。この世界の最果てまでお連れいたしましょう」    しかし、彼の話は愛砂の耳には届いていなかった。 今、目の前に神が居る。 幼いときから、希(こいねが)っていた存在。 どれほど逢いたかったことだろう……。 今まで抱えてきたあらゆる想いと共に涙が溢れ、頬を伝う。 愛砂は差し出された手を握り、震える声で言った。   「ずっと……ずっと貴方に逢いたかった……」
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