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そのあまりの美しさに、愛砂は目を奪われた。
滑らかな雪の肌。
複雑に結い上げられた長く美しい漆黒の髪は、月影が照り返す夜の海面のように煌めく。
切り揃えられた前髪から覗くのは、鉄(くろがね)色の瞳。
薄く紅を引いた口唇は艶やかにして、美しさに拍車をかける。
幾重にも重ねられた白い着物は、光の反射により次々と色を変えていく。
女性と紛うほどの美しい男性であった。
それが誰なのか、愛砂にはなぜかわかっていた。
―――― 神……様……。
微風が二人の間を駆け抜け、鴾色の花弁が花吹雪のように舞う。
「死んだ者の魂は全てここへ導かれ、水中で幾千年と眠りながら浄化されていき、球体へと形を変えていくのです。完全な球体になりし時、空へと昇り、現(うつ)し世へと降る……かくて再び人に宿る……生まれ変わる、と言うのでしょうね……魂の輪廻……無始壙劫と万物は流転するのです、いつも」
歌うようにそう言うと、彼は白く細い手を差し伸べてくる。
「ここは魂の浄化地点・エリュシオン。貴女は肉体がまだ生きていて、魂のみがこちらへ迷いこんでしまった状態です。浄化とは即ち、生前の記憶を消し、癒すこと……ですからこのままここに居続ければ、徐々に浄化され、あちらへ戻れなくなります……さぁ、乗ってください。この世界の最果てまでお連れいたしましょう」
しかし、彼の話は愛砂の耳には届いていなかった。
今、目の前に神が居る。
幼いときから、希(こいねが)っていた存在。
どれほど逢いたかったことだろう……。
今まで抱えてきたあらゆる想いと共に涙が溢れ、頬を伝う。
愛砂は差し出された手を握り、震える声で言った。
「ずっと……ずっと貴方に逢いたかった……」
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