その輝きを

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燿はぼうっとしながら窓から流れる景色を見ていた。 この時、一番落ち着いていなかったのは担任だったかもしれない。 「今、お母さんも病院に向かってるって」 「大丈夫か? しっかりしろよ」 車内で執拗に燿に声をかける。 その度に燿は作り笑いを浮かべ、「わかりました」「大丈夫です」と返事をする。 近くの病院まで連れてこられた燿は、「授業があるから」と駐車場で降ろされた。 「無理しなくて学校に来なくていいからな」 そう言って担任は学校までUターンした。 「…面倒くせ」 ぽつりと呟き、燿は院内へと足を運ぶ。 あの父だ。 豪快で、溌剌で、明朗な父だ。 例え倒れたとしても死なない。 結局何事もなかったかのようにケロっとして戻ってくるのだ。 そう予感していた燿は、この状況を深刻に受け止めていなかった。 病院の受付で、燿は係員に輝のことを尋ねた。 どうやら手術室に運ばれたそうで、自分もそこに向かわなければならない。 そのまま道のりを教えてもらい、無言のままスタスタと廊下を歩く。 そこで待っていたのは律だった。 「お兄ちゃん…」 隅っこの席に座り、小さな体をがくがくと震わしていた。 そして、燿の顔を見た途端に我慢していた涙が溢れ出した。 「お父さんが、お父さんが…」 同じ言葉を繰り返し、泣きながら燿の制服の袖を掴む。 「わかってるから…母さんを待つぞ」 ポンっと肩を叩き、燿はそのまま2人で母親を待つ。 今、目の前の大きな扉の上は「手術中」の赤いランプが光っている。 輝はこの中にいるのだ。 輝の手術が終わるのが先か。 母親が来るのが先か。 時計を見ても、まだ15分しか進んでいない事実に燿は愕然とした。 隣で祈るように手を組む律を見るだけで、時が早く進む訳がない。
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