その輝きを

4/22
2178人が本棚に入れています
本棚に追加
/425ページ
学校生活自体はとても平和だった。 学校祭も終わり、秋大会も終了した燿にとって一番楽で、一番退屈な時期だ。 朝、妹の律に起こされ、学校へ行き、部活をして帰る。 瞑や流花と下校する毎日だが、それだっていつもと変わらない。 ある日のことだ。 いつも通り授業を受けていたら、授業中にも関わらず担任の先生が入ってきた。 「千倉、ちょっと…」 担任に手招きされる燿は不思議がるも黙って席を立った。 途中、瞑に「何やらかしたの?」とにやつかれたが、それも全面的に無視した。 が、担任は一度燿を止めた。 「荷物も持ちなさい」 「……え?」 その言葉に思わず燿もクエスチョンマークを浮かべる。 教室内がざわめき始める。 「静かに」と授業を受け持った先生が言っても、こうなったら生徒は聞かない。 燿は渋々鞄を持ち、騒ぎ立てる生徒の間を通って教室を出た。 瞑はにやけ顔から真顔に一変する。 ふと顔をあげると、心配そうな表情の流花と目が合う。 この感じ、何と無くだが2人は予想できた。 呑気なのは燿だけだったのかもしれない。 「…で、なんですかいきなり」 教室の外へと出た燿はぴしゃりと扉を閉めた。 が、担任は「来なさい」と歩き出したのだ。 「いいか、落ち着いて聞けよ」 神妙な顔つきになる担任。 彼の次の言葉で、燿の思考は停止した。 「お父さんが会社で倒れたそうだ」 「は?」 目が丸くなった。 何故なら、輝は今日も変わらずに出勤したからだ。 体調が悪いとも聞いていない。 いつも通り豪快に笑う声が家中に響き渡るくらいだ。 それなのに、担任は"倒れた"と言った。 「近くの病院に運ばれたらしい。先生が送ってやるから、それまで気をしっかり持てよ」 担任は燿の背中をぽんと叩いた。 気合投入というよりは、優しい慰めだった。 だが、当の本人は冷静だった。 「すいません、お願いします」 父親が倒れたというのに、顔色一つ変えずに、燿は担任に請いた。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!