その輝きを

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母親が来たのはそれから30分後のことだった。 どうやら看護師に輝の病状を聞かされて遅くなったらしい。 青ざめた母親がそのまま子供達を抱きしめた。 思春期の彼にとってすぐにでも離れたかったが、震えた母親を見ているとそういう訳にもいかないようだ。 「お母さん?」 心配した律が母親を見上げる。 気を取り戻した母親は、そのまま2人の手を取る。 「よく聞いてね。お父さん、脳出血になったらしいの。それで今手術しているけど…もしかしたら…」 だが、母親は最後まで言う事ができなかった。 この状況は、子供達も十分理解していた。 勿論、最悪な状況も。 律は顔を歪め、そのまま母親に抱きついた。 互いを抱きしめる母親と律だが不安に押しつぶされないように、自分を保つので精一杯だった。 その様子を燿は見ることしかできない。 それからまたどれくらいの時間が経ったか。 意気消沈した2人は一言も話さずに俯いていた。 そんな中、燿は時計をぼうっと見ることしかできない。 担任に連れていかれたのは2時間目だったのに、今はもうホームルームが行われる時間か。 輝が病院に運ばれて5時間目も経過していた。 今でも手術は行われている。 手術中のの明かりが消えるのは、それからまた少し経ってからだった。 手術を終えた医者が手術室からでてきた。 その途端、母親は弾かれるように立ち上がった。 「あの! 主人は…」 母親は直様医者に駆け寄る。 律もそれに続いて医者の前に立ちはだかった。 燿は椅子から立たず、その場で医者の言葉を聞いていた。 医者の口が開かれる。 その言葉を、緊張の眼差しで母親は見つめていた。 日常は、こうも簡単に崩れ去るのだ。
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