光と影とそして華

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おまけ * * * 「そうですか…」 ズズッ…と茶を啜りながら一世は呟いた。 目の前には真剣な眼差しで瞑が座っている。 一世が帰宅してから瞑は全てを話した。 早川楓の事件、そして、自分の決意も。 だが、一世は何か考えるように暫時沈黙した。 そして、やっと口を開いたかと思えば、ソファでテレビを見ている悟に話しかけた。 「君と同じですね、悟」 「え?」 その発言に瞑は素っ頓狂な声をあげる。 「悟も進路の話をするとき、家業を継ぎたいって言ってくれたんですよ。彼の場合は僧侶のほうですけどね」 悟は聞こえないふりをしていたが、罰が悪そうに頭をかいた。 「ただ…」 言葉を詰まらせる一世に瞑は生唾を飲んだ。 「私の仕事を継いでくれるのはとても嬉しい。ですが、親としては進学して欲しい気持ちがあるのです」 瞑としてはとても意外な言葉だった。一世なら喜んでくれると思ったからだ。 だが、一世の願いはこうだ。 「人生は何があるかわかりません。君たちの長い人生の中で選択肢を増やすためにまずは大学や専門学校を出て学歴を身につけるべきだと思うのです。家業の勉強はそれからでも遅くありません。それにーー大学では勉強よりも学べることがいっぱいありますからね」 一世はにっこりと笑って「ね、悟」と悟に振った。 が、悟は照れ臭そうに頬を染めただけだ。 瞑は想定外の父の本音に戸惑いが隠せなかった。 進学…それが父である一世の願いだなんて思ってもいなかった。 困り果てている瞑に一世は思いついたように手を叩く。 「提案なんですが…大学でもう一度弓道をやればどうでしょう?」 鳴弦の腕も上がるので一石二鳥だ。 それが一世の言い分である。 それでも瞑は悩んだ。 「それはそれで賛成なんだけどさ…」 弓を新たに学ぶのは良い。 問題は"どこで"学ぶかだ。 「また進路決め直し~?」 折角進路希望調査表を提出できると思ったのにこの様だ。 「それは、自分で決めませんとね」 「せいぜい悩みやがれ」 温かな目で見守る一世と、「ざまあみろ」と舌を出す悟。 そんな2人に構うことなく、瞑は唸り声をあげながら頭を掻きむしった。 ーー彼の悩みはまだまだ続く。 おわり。
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