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男はバスルームに消えていった。
シャワーの音と共に空しさが女の中に押し寄せた。
「帰りたい」
女は、やおら起き上がると服に着替え、部屋を出た。
街のネオンがゆるりと女をつつんだ。
彼女の名は[麻子]。
「明日は休みでよかった」一人つぶやいた。
麻子は、田舎が嫌いで早くから実家を離れて、東京で独り暮らしをしていた。
明かりのない部屋へ帰る。
上京したての頃はそれが寂しくて、よく電気をつけたまま会社へ行っていた。
しかし、上京し十数年も経つと明かりのない部屋がかえってホッとする。
シャワーを浴び、男のニオイを洗い流す。
鏡に自分の姿を見つける。
酷く疲れた顔。
麻子は色白だが、どこか垢抜けない綺麗とはほど遠い容姿だった。
鏡の自分につぶやいた。
「あんた、今日もブスね」
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