睦月

3/6
前へ
/82ページ
次へ
 東京では珍しく雪が降った。 麻子は早めに家を出る。 いつもなら会社まで電車で30分なのだが、雪の影響でダイヤは乱れ1時間以上も満員電車にゆられた。 やっと満員電車から解放されたが、始業ギリギリの時間になっていた。 足早に改札を抜けると、後ろから麻子を呼ぶ声がした。 同期の正人だった。 正人は同期だが麻子より年上だ。 そして麻子の親友『美紀』の恋人でもある。 正人と肩を並べて歩きだす。 「麻子、お前もそろそろ彼氏の一人でもつくれよ。崖っぷちだぞ」ニヤリと麻子を見下ろす。 「大きなお世話です。そっちこそ、美紀とはどうなの?」 「あ~、その話は後にしてくれ。今日の夜、飯に付き合え。終わったらメールいれるわ」 「わかった」 会社の入り口で二人は別れた。 PM4:45 ~♪ ~♪ 麻子の携帯がなる。 正人からのメールだった。 [いつもの店に六時] 六時を少し回った頃に麻子は待ち合わせた店に着いた。 店内を見渡す。 正人の姿はない。 カウンターに座り、ビールと簡単なつまみをオーダーした。 ビールを呑み終わり、麻子がジントニックをオーダーした時、正人は現れた。 「悪い、会議が長引いた」 正人はビールを頼み、麻子の隣に座る。 朝と同様に二人は肩を並べていた。 たわいもない会話がつづく。 週末と言うだけあって店内は混み合っていた。 麻子が美紀の話を切り出そうとした時、正人は立ち上がった。 「そろそろ出るか」 麻子は、話すのを辞めて正人の後について出口に向かった。 ふと見ると奥のテーブルに美紀がいた。 麻子は一瞬ためらったが、このまま素通りするわけにもいかない。 仕方なく、美紀のいるテーブルに近づいた。 麻子に気付いた美紀の顔が一瞬曇る。 数秒でその理由がわかった。 美紀の隣に麻子が知らない男がいて、美紀の膝に男の手があった。 男は手をすぐにどけたが麻子は見逃さなかった。 「麻子も来てたんだ」 「うん。会社の人とね。もう、帰るけど」 正人も一緒だと言える雰囲気ではない。 「今度電話するね」美紀にそう言うと、麻子は男に軽く会釈をして、その場から離れた。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加