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東京では珍しく雪が降った。
麻子は早めに家を出る。
いつもなら会社まで電車で30分なのだが、雪の影響でダイヤは乱れ1時間以上も満員電車にゆられた。
やっと満員電車から解放されたが、始業ギリギリの時間になっていた。
足早に改札を抜けると、後ろから麻子を呼ぶ声がした。
同期の正人だった。
正人は同期だが麻子より年上だ。
そして麻子の親友『美紀』の恋人でもある。
正人と肩を並べて歩きだす。
「麻子、お前もそろそろ彼氏の一人でもつくれよ。崖っぷちだぞ」ニヤリと麻子を見下ろす。
「大きなお世話です。そっちこそ、美紀とはどうなの?」
「あ~、その話は後にしてくれ。今日の夜、飯に付き合え。終わったらメールいれるわ」
「わかった」
会社の入り口で二人は別れた。
PM4:45
~♪ ~♪
麻子の携帯がなる。
正人からのメールだった。
[いつもの店に六時]
六時を少し回った頃に麻子は待ち合わせた店に着いた。
店内を見渡す。
正人の姿はない。
カウンターに座り、ビールと簡単なつまみをオーダーした。
ビールを呑み終わり、麻子がジントニックをオーダーした時、正人は現れた。
「悪い、会議が長引いた」
正人はビールを頼み、麻子の隣に座る。
朝と同様に二人は肩を並べていた。
たわいもない会話がつづく。
週末と言うだけあって店内は混み合っていた。
麻子が美紀の話を切り出そうとした時、正人は立ち上がった。
「そろそろ出るか」
麻子は、話すのを辞めて正人の後について出口に向かった。
ふと見ると奥のテーブルに美紀がいた。
麻子は一瞬ためらったが、このまま素通りするわけにもいかない。
仕方なく、美紀のいるテーブルに近づいた。
麻子に気付いた美紀の顔が一瞬曇る。
数秒でその理由がわかった。
美紀の隣に麻子が知らない男がいて、美紀の膝に男の手があった。
男は手をすぐにどけたが麻子は見逃さなかった。
「麻子も来てたんだ」
「うん。会社の人とね。もう、帰るけど」
正人も一緒だと言える雰囲気ではない。
「今度電話するね」美紀にそう言うと、麻子は男に軽く会釈をして、その場から離れた。
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