それは薄桃、桜の季節

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――お願いだ。忘れないで欲しいんだ。あの時固く、つないだ小指の事を―― キミに出会ったのは、桜の花が凛と咲き誇る四月だった。 ある晴れた、コバルトブルーが綺麗な空の下。 空に広がる桃色の桜が、やけに印象的だった。 ボクが河原で絵を描いていると、キミがいきなり声をかけてきたんだよね。 キミは急にボクの絵を覗き込んできて、 「面白い色使いだなぁ」 って言った。 それから勝手に絵を取り上げて、斜めにしたりかざして見たりしながら絵と睨めっこをして……そしてにっこり笑って、ボクにこう言ったね。 「オレは、空(そら)。オレも、絵を描いてるんだ」 今でも忘れないよ。 忘れられないよ。 だって、あれがボクとキミの出会いだったんだもの。 空。それがキミの名前だった。
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