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「どうですか?妹の様子は」
「それが一向に…未だ現実と幻想の認識が出来ず、幻覚症状も多々見受けられます。特に、色の識別に関しては良くなる様子が見られません」
「そうですか。苦労かけてすみません」
「いえ、仕事ですから」
僕は妹の担当医と、ひとしきりお決まりの会話をしてから彼に頭を下げた。
それから、妹が僕に宛てた手紙を受け取る。
「毎回、結構な量ですよね。一体こんなところで、彼女は何を書いているんですか?」
「教えられませんよ。僕と妹の秘密ですから」
「それは残念」
医者と僕は少し笑った後、彼は仕事へ、僕は妹の病室へと向かった。
そっと扉を開いて、眩しいほどの白い病室へと足を踏み入れる。
清潔な消毒薬の臭いが充満していた。
妹はよく眠っている。
両手に巻かれた包帯に血が滲んでいることから、おおよそまた狂気的に手を洗って鎮静剤でも打たれたのだろう。
僕はベッドのそばの椅子に腰掛け、妹からの手紙の封を開いた。
全く、手紙に何を書いているのかだって?
毎回、同じ内容だ。
僕は自然緩む口元を隠す事が出来ず、くっ、くっ、と喉を鳴らして嗤った。
心配しなくてもいいんだよ?
僕は至って元気だし、今みたいにちゃんと笑えている。
君はあれから3年もの月日が過ぎた事を知らない。
僕が、科は違えども、君が入院しているこの病院に配属されたことも。
君自身が、少女のような顔付きから、大人びた顔付きに変化したことも。
全ての時間という概念に捕らわれず、あの時を生きる君はきっと誰よりも幸せだろう。
君が、僕に兄妹愛以上の感情を抱いているのは、こんな事が起こるずっと前から知っていた。
その感情が、単なる憧れを勘違いして膨らんだものに過ぎないことも。
僕は妹からの手紙をそっとしまうと、長く伸びた髪を掬って優しく口付けた。
愚かな可哀想な妹よ。
恋に恋した少女を操る事など、眠った赤子の首を捻るより簡単な事なんだよ?
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